最終更新日
2026.10.11
中年からの運動――筋肉・腱・関節の変化に合わせた「頑張り方」を
「健康のために走り始めたら膝が痛くなった」「久しぶりのスポーツでアキレス腱を傷めた」。中年期以降には、気持ちは若い頃のままでも、体が思うようについてこないことがあります。その背景には、筋肉や腱、関節など、体を支える組織の変化があります。これからも運動を楽しむために大切なのは、今の体が耐えられる負荷と、回復に必要な時間を意識することです。
筋肉は力を生み、腱はその力を骨に伝え、関節は体の動きを支えています。年齢を重ねると、筋力が低下しやすくなるほか、腱の線維や細胞にも変化が生じます。こうした変化は、負荷への対応や傷ついた組織の修復に影響します。ただし、「何歳になれば強度が何割落ちる」と一律にはいえません。組織の種類や運動習慣、過去のけがによって違いがあるためです。
特に注意したいのは、普段は問題なく動けることと、傷めた後に十分回復できることは同じではない点です。2017年のマウスを用いた研究では、加齢によって損傷前の腱の力学的性質が大きく変わらなくても、損傷後の治癒力は低下することが示されました。動物の結果をそのまま人に当てはめることはできませんが、「いつも動けているから、無理をしても大丈夫」とは限らないことを考える手がかりになります。
運動による負荷は、体の機能を保つために必要です。一方、組織が耐えられる範囲を超える力や、回復が追いつかないほど繰り返される負荷は、障害につながり得ます。久しぶりに全力で走る、急に練習量を増やす、痛みを我慢して同じ動作を続けるといった行動には注意が必要です。息が苦しくない運動でも、関節、腱、靭帯などには大きな負担がかかる場合があります。呼吸の余裕だけでなく、局所の痛みや翌日の状態にも目を向けましょう。厚生労働省「運動を安全に行うためのポイント」
関節のけがは、その場の痛みだけの問題ではありません。将来の変形性関節症との関連も報告されています。変形性関節症は、軟骨だけでなく、骨や関節を包む組織(半月板、関節包、靭帯)などにも変化が起こり、痛みや動かしにくさを生じる病気です。
ただし、「関節は使うほどすり減るので、運動を完全に避けた方がよい」と考える必要はありません。2017年の解析では、股関節・膝の変形性関節症がみられた割合は、趣味で走る人で3.5%、走らない対照群で10.2%、競技レベルのランナーで13.3%でした。つまり、全く走らないことも、走り過ぎることも、変形性膝関節症、股関節症のリスクを上昇させる可能性があり、趣味程度に走ることがリスクを低下させ得るということを示しています。ただし、年齢や過去のけがなどの影響があり、この数字だけで予防効果や安全な走行距離を決めることはできません。
では、どう調整すればよいのでしょうか。まず、運動の強さだけでなく、時間、回数、休養を合わせて考えます。運動を再開するときは、以前できていた量より少なめから始め、体の反応を見ながら段階的に増やしましょう。例えば歩く時間を延ばした日は速さを上げないなど、一度に複数の条件を変えない方が負担の要因を把握しやすくなります。強い運動の翌日は軽い運動に置き替えるなど、回復のための余裕も予定に入れてください。厚生労働省「身体活動・運動ガイド2023」
歩行だけでなく、無理のない筋力トレーニングも取り入れましょう。椅子からの立ち座りなど、自分の体重を使う運動でも始められます。膝に負担を感じる場合は、状態に応じてエアロバイクや水中歩行なども選択肢になります。大切なのは特定の種目や回数を守ることより、自分の関節や体力に合った方法を選ぶことです。変形性関節症がある方にも運動は勧められますが、痛みや病状に応じた調整が必要です。厚生労働省「慢性疾患を有する人の身体活動のポイント」
運動中に鋭い痛みが出る、関節が腫れる、足を引きずる、翌日も痛みが増している場合は、負荷を下げ、症状が続くときには受診してください。突然の強い痛みや、体重をかけられない状態では、早めの診察が必要です。「痛くても続ければ鍛えられる」と我慢しないようにしましょう。厚生労働省「運動を安全に行うためのポイント」
中年からの運動では、体を鍛えることと、組織を守ることを一緒に考えたいものです。回復期間を設けることもトレーニングの一環です。昨日の疲れや痛みに合わせて予定を変えることが上手な運動の続け方です。今の体に合った負荷と休養を選び、数年先も気持ちよく動ける体を育てていきましょう。

