最終更新日
2026.10.11
子どものスポーツ障害を防ぐために ― エリート育成と「休むこと」の大切さ ―
「もっと練習すれば、もっと上手くなる」
スポーツを頑張っている子どもや、その成長を応援する保護者の方であれば、一度はそう考えたことがあると思います。
もちろん、競技力を高めるためには十分な練習が必要です。特に高いレベルを目指す選手では、技術を繰り返し練習し、体力を高めていくことは欠かせません。
しかし、成長期の子どもに関しては、「練習量を増やせば増やすほど強くなる」とは限りません。
むしろ、練習と同じくらい大切なのが「回復する時間」です。
子どもの体は「小さな大人」ではありません
成長期の子どもの骨には、「成長軟骨(骨端線)」や、腱が骨に付着する部分に「骨端核」と呼ばれる、まだ成熟していない部分があります。
筋肉や心肺機能がどんどん発達する一方で、骨や腱の付着部は繰り返される負荷に弱い時期があります。
そのため、同じ動作を何度も繰り返していると、大きなケガをした覚えがないのに、少しずつ組織に負担が蓄積して痛みが出てくることがあります。
これが「オーバーユース(使いすぎ)によるスポーツ障害」です。
代表的なものとして、
・膝のオスグッド病
・踵のシーバー病
・野球肘
・リトルリーグショルダー
・腰椎分離症
・疲労骨折
などがあります。
こうした障害は、転倒や衝突による「一度の大きな力」で起こるケガとは異なり、小さな負荷の積み重ねによって発生することが特徴です。
「練習」と「回復」の両方で強くなる
トレーニングをすると、筋肉や骨などの組織には一時的に疲労や小さなダメージが生じます。
その後、十分な睡眠や栄養、休養をとることで体は修復され、次の運動に耐えられるように適応していきます。
つまり、
トレーニング → 疲労 → 回復 → 適応
というサイクルを繰り返すことで、選手は少しずつ強くなっていきます。
問題になるのは、「回復」が終わる前に次々と強い負荷を加えてしまうことです。
練習量が体の回復能力を上回る状態が続けば、適応するどころか疲労や組織のダメージが蓄積します。その結果、痛みだけでなく、パフォーマンス低下、慢性的な疲労、睡眠の問題、気分の変化などにつながることもあります。
休養は、練習をしていない時間ではありません。
練習の効果を「成長」に変えるための時間なのです。
エリートを目指すほど、たくさん練習すべき?
ここは非常に難しい問題です。
高い競技レベルを目指すためには、ある程度の練習量が必要なのは間違いありません。一方で、子どもの頃から一つの競技だけを一年中行い、練習量を増やせば、将来エリート選手になれるとは限りません。
多くのスポーツでは、幼少期から一つの競技だけに特化する「早期専門化」よりも、さまざまな運動を経験しながら、成長とともに徐々に専門性を高めていくことが推奨されています。
違うスポーツや遊びを経験することは、決して遠回りではありません。
走る、跳ぶ、投げる、バランスを取る、方向転換するといったさまざまな動きを経験することで、身体能力の土台を広げることができます。
そして何より重要なのは、長く競技を続けられる体をつくることです。
「痛いけれどできる」は要注意
スポーツ障害の診療をしていると、
「練習中は痛いけれど我慢できる」
「試合には出られるから大丈夫」
「休むとレギュラーを取られてしまう」
という子どもたちに出会います。
しかし、オーバーユースによる障害では、完全に運動できなくなる前の段階で負荷を調整することが非常に重要です。
特に、
運動中の痛みが続く、以前よりパフォーマンスが落ちた、疲れが取れない、朝起きても疲れている、練習を楽しめなくなった
といった変化は、体からのサインかもしれません。
痛みを我慢して練習を続け、数か月競技を離れなければならなくなるよりも、早い段階で負荷を調整して短期間で復帰できる方が、長期的な競技力向上につながります。
「休ませる勇気」もアスリート育成の一部です
米国小児科学会(AAP)は、若年アスリートについて、競技や競技特有のトレーニングから週に少なくとも1~2日の休養日を設けることや、一つの競技について年間2~3か月程度離れる期間をつくることを推奨しています。
もちろん、適切な練習量は年齢、競技、成長段階、本人の体力などによって異なります。大切なのは「何時間までなら絶対安全」と考えることではなく、練習による負荷と回復のバランスを継続して見ることです。
子どものスポーツで目指したいのは、「今、一番強い選手」をつくることだけではありません。
成長期の体を守りながら能力を伸ばし、10年後、20年後にもスポーツを楽しめる体をつくること。
本気で上を目指す子どもほど、練習の質と同じくらい、睡眠・栄養・休養を大切にする必要があります。
「休むこと」もトレーニングの一部です。
痛みが続いている場合や、練習量をどの程度減らせばよいのか迷う場合には、無理を続ける前に整形外科へご相談ください

